当院の静脈内鎮静法を使った無痛歯科治療の流れ
こんにちは。
都立大学駅前で歯科医院をやっております、都立大学HAGIOデンタルクリニック院長・歯科医師の萩尾信輔です。
今回は、当院における静脈内鎮静法を用いた無痛歯科治療の手順と注意事項についてお話させて頂きます。
静脈内鎮静法はこんなお悩みの方におすすめ
・とにかく歯科治療が怖い、嫌い
・歯を削る音が苦手
・緊張や恐怖心で治療中に具合が悪くなった事がある
・口の中を触られると吐きそうになる
・口を開けているのが辛い
・一度にたくさんの治療をしてほしいが辛いのは嫌だ
・インプラント手術、親知らずの抜歯など外科的処置を受ける
初診時の流れ
1.問診
基本的に初めての来院時に静脈内鎮静法での治療を行うことはしません。
まずは、問診にて、主訴や既往歴、現病歴、歯科恐怖症の原因となった出来事、その後の経緯、何が苦手なのか、どこまで点滴麻酔なしで治療が出来そうなのかを伺います。
2.診査・診断
レントゲン写真や可能であれば気になっている部位の確認、虫歯、歯周病の診査、診断を行います。
もちろんお口の中を見ることも出来ない場合には、レントゲンと問診にて治療内容を可能な限りお話し、治療計画をご相談します。
3.鎮静前のリスク評価
呼吸・気道、循環、嘔吐・誤嚥を中心にリスク評価を行います。
過去の病歴はもちろんアレルギーやイビキ、睡眠時無呼吸、開口障害、顎の大きさなどを把握します。
4.当日の治療の流れ及び無痛点滴麻酔を行う前後の注意事項の説明
処置前後の注意事項に関しては、後ほどお話させて頂きます。
静脈内鎮静法での治療当日の流れ
1.当日の流れの説明と注意事項の再確認
鎮静前の絶飲食の確認、体調、お口の中の状況、既往歴、アレルギーなどの再確認を行います。
特に絶飲食に関しては必ず守って頂く。
2.モニタリング
パルスオキシメーターによる血中酸素飽和度の測定、血圧、心拍数等を測定していきます。
3.ルート確保
腕から点滴麻酔を入れる経路を確保します。
4.点滴開始
数分で麻酔が奏功してきます。
5.歯科治療開始
鎮静状態の確認後、表面麻酔を行います。
以前お話指したが、静脈内鎮静法には鎮痛作用はありません。
ですので、通常歯科治療で用いられる、局所麻酔を行います。
6.治療中の麻酔深度のコントロール
歯科治療の内容に応じて、麻酔の深度をコントロールしていきます。
型取りなどの場合や噛み合わせの調整の際には、麻酔の深度を浅くして、状況を確認しながら治療を行います。
この時には、多少意識がある状態になりますが、静脈内鎮静法には健忘効果があるため、覚えていない場合もあります。
7.歯科治療終了
歯科治療終了後、点滴を外します。
8.回復期のケア
鎮静終了後、十分なモニタリングを行いながら回復を待ちます。
呼吸抑制リスクがなくなり、意識レベル、バイタルサインを確認後、問題がなければ治療内容を説明後、退室します。
静脈内鎮静法は局所麻酔との併用が必要
深い麻酔をかけながら同時に必ず注射による局所麻酔併用します。
点滴で全身に薬を効かせているはずなのに、さらに局所麻酔が必要であるのには理由があります。
点滴で体に入れる鎮静法や麻酔法と歯ぐきに注射する局所麻酔では薬の効くメカニズムが全く違います。
静脈内鎮静法や静脈内麻酔法は脳での痛みの感じを鈍くするよう作用するのに対し、局所麻酔は治療する箇所の細胞に存在する痛みの刺激を脳に伝える物質を遮断するよう作用します。
痛みを生じる”元栓”を閉めて脳に痛みの刺激をできるだけ伝えないようにします。
静脈内鎮静法では局所から発生する痛みそのものを抑えることはできません。
どんなに脳での痛みの感じ方を鈍くしても限界はあるので、局所の痛みが強く、その刺激が脳へ運ばれていけば痛みを感じてしまいます。
静脈内鎮静法を行うにあたっての注意事項
以下の方は、副作用とリスクを考慮して、点滴麻酔をご利用できない場合があります
※静脈内鎮静法をご検討の場合には、事前に担当医に申し出て下さい。
・卵、大豆アレルギーの方(鎮静薬に大豆油、生成卵黄レシチンなど大豆、卵黄由来の物があります。)
・妊娠されている方、授乳中の方
・睡眠時無呼吸症候群などの普段から呼吸に問題のある方
・急性狭偶角緑内障(眼の病気)
・重症筋無力症候群(筋肉の病気)
・エイズ治療のお薬を服用されている方
・肝臓、腎臓に障害をお持ちの方
当日のお願い
・お薬の効果が切れる時間には個人差がありますので、治療後のご予定にご注意ください。
・お薬が切れて目が覚めても意識がはっきりしないことがあるので、当日はお車や自転車の運転はお控えください。
・施術中の脈などを指先の爪から光を利用した機械で管理(モニタリング)するので付け爪やマニキュアはお控え下さい。(足の指でも計測可能ですので、1本は何もつけない状態でお越し下さい。)
・前日の飲酒は麻酔薬の代謝に影響しますのでお控え下さい。
・嘔吐する場合があるので、施術予定時間2時間前からの飲食はお控えください。
・2時間前であれば、スポーツドリンクのように糖分、電解質を含んだ飲み物も可能ですが、飲み過ぎ内容にして下さい。
・軽食は6時間前まで可能ですが、油分の多いものは控えて下さい。
その他の注意事項
・各種モニター装着の関係上、厚手の服装は避け、肘までめくれる服装にして下さい。
・治療後は、足元がフラつく可能性がありますので、ヒールなどは避け、脱ぎやすく、歩きやす靴でご来院下さい。
まとめ
今回で、全6回にわたる歯科恐怖症と静脈内鎮静法を用いた無痛点滴治療、無痛歯科治療のお話はおしまいになります。
※過去5回の無痛歯科治療に関するブログ記事はこちら
第1回:私が無痛歯科治療を行うようになったきっかけ
第2回:歯科恐怖症改善の始めの一歩は知ることから
第3回:歯科における嘔吐反射と異常絞扼反射について
第4回:歯科恐怖症の分類とそれぞれの治療方法
第5回:治療前に知りたい静脈内鎮静法と笑気麻酔の違い
今回のブログが、歯科治療が苦手な方や今まで通うことが出来なっかった方が歯科医院に通うことが出来るようになるきっかけになればとても嬉しく思います。
歯科恐怖症の方の治療は、患者さん、術者共に決して簡単な治療ではありませんが、一人でも多くの方を今後も救うことが出来るように努めていきたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。