歯科における嘔吐反射と異常絞扼反射について
前回は、歯科恐怖症(デンタルフォビア)についてお話させて頂きました。
今回は、歯科恐怖症とは異なりますが、歯科治療の受診が難しくなる原因の一つである、嘔吐反射と異常絞扼反射について詳しくお話していきたいと思います。
嘔吐反射、絞扼反射とは
歯科では様々な器具をお口の中で使用するため、それにより吐き気を催し、治療が困難になる方がいらっしゃいます。
一般的には嘔吐反射という言葉で認知されているものです。
嘔吐反射とはお口の中に異物が入ることで、強い吐き気を催す状態で、嘔吐物を含みます。
嘔吐物は含まないが「オエッ」となり、吐き気を催す事を絞扼反射と言い、正確には、中咽頭を刺激した時に起こる、舌根の挙上に伴った咽頭筋群の強い収縮のことを指します。
歯科治療においては、大人の方の場合には、絞扼反射が主になります。
この嘔吐反射、絞扼反射は、異物が食道へ入らないようにする為の生理的な防御反応ですが、過去の経験や恐怖心から異常に絞扼反射が起こっている場合があります。
このように、精神的な側面から異常に絞扼反射が起こっている場合には、歯科恐怖症と考えた上での歯科治療が必要です。
なぜ嘔吐反射や絞扼反射が起こるのか
吐き気や嘔吐の原因は主に、胃腸などの消化器系の病気によるもの、もしくは心理的、精神的な要因によるものです。
消化器系の病気については専門ではありませんが、食中毒などが挙げられるようです。
また、心筋梗塞や腸閉塞、脳卒中など命の危険に関わる病気の場合にも、症状の一つとして出る場合があるようです。
次に、吐き気や嘔吐のもう一つの大きな原因として、精神的な影響が挙げられます。
ストレスなどの精神的な影響により起こる吐き気には、自律神経が大きく関係しており、脳が精神的ストレスを感じると交感神経が優位になり、その状況を回避し、迅速に体を動かせるように、延髄にある嘔吐中枢が刺激されます。
それにより、嘔吐反射や絞扼反射が起こります。
ですので、昔に受けた歯科治療での痛みやトラウマにより、精神的なストレスを感じると平常時よりもより吐き気を感じやすくなる場合があります。
そのような場合には、精神的にリラックスし、副交感神経が優位になるように、静脈内鎮静法下における歯科治療が有効だと考えられます。
なぜ飲食時には嘔吐反射や絞扼反射は起きないのか
嘔吐反射や絞扼反射は、なぜ普段飲食している時には起きないのかという事に疑問を持った為、調べてみることにしました。
私達がごっくんと飲み込む際の嚥下運動は、舌咽神経により嚥下反射を起こします。
そして、嘔吐反射、絞扼反射もまた舌咽神経により反射が起こります。
同じ神経に両方の機能を持たせることで、嚥下反射と絞扼反射が同時に起きないようになっていました。
私たちの身体がとても繊細な働きをしていることに驚かされますね。
嘔吐反射、絞扼反射の程度による分類と治療方法
染谷源治氏の「染谷の分類」に基づき、以下の3つに分類します。
(染谷源治:嘔吐反射の強い患者の歯科治療はどうするか:デンタルダイヤモンド増刊号)
軽度の嘔吐反射(絞扼反射)
大臼歯部の印象採得やデンタルX-P撮影のみが不可能で、他の一般的歯科治療は可能
軽度の場合には、鎮静を用いる事なく、診療の工夫により通常の治療が可能な事が多いですが、無理に行うことにより精神的な負担が大きくなりますので、その後の治療に通えなくなる事があります。
そうなると虫歯や歯周病が進行し、治療が複雑になる場合がありますので、無理をせず笑気麻酔や鎮静を行うことをお勧めします。
中等度の嘔吐反射(絞扼反射)
前歯部の歯科治療は可能であるが、大臼歯部での治療や口腔底でのミラー操作が不可能
中等度の場合には、特に奥の方の治療においては、無理をせず静脈内鎮静法を行いながら治療をすることをお勧めします。
重度の嘔吐反射(絞扼反射)
歯科治療が全く不可能か、もしくは日常生活で歯ブラシの使用も不可能
重度の場合には、静脈内鎮静法や麻薬の併用が有効と言われています。
また、それでも治療が出来ない場合には、全身麻酔下での治療が必要になります。
まとめ
今回は、歯科恐怖症でない方でも、悩まれている事の多い嘔吐反射、異常絞扼反射についてお話させて頂きました。
歯科において、通常の虫歯治療等は施術可能でも、型取りが苦手な方は多くいらっしゃると思います。
そのような場合には、笑気麻酔や静脈内鎮静法を用いた治療が有効です。
また、昨今では口腔内スキャナーを使用した、デジタル印象が普及してきていますので、以前よりも楽に型取りができるようになってきています。
ただし、現段階においては、最新の口腔内スキャナーであっても、以前の型取りと比べて精度が劣る場合や、口腔内スキャナーの先が比較的大きい為、型取り出来ない場合もあります。
歯科治療時に起こる嘔吐反射や異常絞扼反射においては、精神的な影響も少なからずありますが、やはり元々えずき易い方が多い印象があります。
私が最後にお伝えしたいこと
嘔吐反射や異常絞扼反射がある場合には、無理をせずに笑気麻酔や無痛点滴麻酔である静脈内鎮静法での歯科治療を選択して下さい。
理由としては、無理をすることにより、歯科に対するマイナスなイメージやトラウマになってしまい、その後の歯科治療が出来なくなる可能性や嘔吐反射や異常絞扼反射からの歯科恐怖症になってしまうことがあるためです。
そうなってしまうと、よりお口の中の環境が悪化し、口腔内の崩壊につながっていきますので、嘔吐反射や異常絞扼反射がある場合には、1度担当の先生にご相談されることをお勧めします。
次回は、歯科恐怖症の分類とそれぞれの治療方法についてお話させて頂きたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございます。