歯科恐怖症の分類とそれぞれの治療方法
今回は、私の歯科恐怖症の方への治療の経験を元に、歯科恐怖症の度合いに応じて、軽度、中等度、重度に分類し、それぞれに応じた治療方法、私の考え方をお話したいと思います。
また、最後に歯科治療を行わずに治療を放棄してしまった場合についてお話します。
全顎的な治療が必要になった場合には、より治療が複雑になりますので、そのような場合の対応方法についてもお話させて頂きます。
歯科恐怖症の方の分類とその対応法
ひとくちに歯科恐怖症と言っても、病院の中に入って来れない方から歯医者さんは苦手だけど何とか頑張って治療を行っている方まで、その範囲は様々です。
私の中では、歯科恐怖症の方をその度合いに応じて軽度、中等度、重度に分類しています。
また、歯科恐怖症とは異なり、以前お話した異常絞扼反射の方もいらっしゃいますので、その場合には歯科恐怖症とは異なる認識が必要になります。
歯科恐怖症 軽度の場合
過去のトラウマになった経験や歯科治療において苦手な事をヒアリングし、その点において注意すれば何とか治療が出来たり、笑気麻酔で対応可能な場合が多いです。
笑気麻酔については後ほど詳しくお話しますが、笑気麻酔で対応可能な方とそうでない方の判断が難しく、初回の治療を笑気麻酔で行い上手くいかなかった場合に、さらに精神的な負担を強いることになってしまうことがあります。
そうなってしまう事を防ぐために、現在、私の医院では笑気麻酔は取り扱わず、点滴麻酔を用いた静脈内鎮静法を行っています。
また、軽度の方の場合においては、初回及び抜歯や根管治療、型取りなどの苦手な治療においてのみ静脈内鎮静法を用いることにより、徐々に歯科治療及び医院の雰囲気、担当歯科医師、担当歯科衛生士の治療に慣れて頂き、将来的に静脈内鎮静法による無痛点滴麻酔を行わずに治療が出来るようになるようにアシストしていきます。
何かあればまた点滴麻酔にて治療を行える環境にしておくことにより、治療へのハードルがとても下がり、治療費用の削減にも繋がります。
現在、当院には以前は点滴麻酔を使用していた人でも、簡単な治療やクリーニングであれば点滴麻酔なしで治療を受けている方も多くいらっしゃいます。
歯科恐怖症 中等度の場合
歯科恐怖症の度合いが中等度の場合には、一般の歯科医院では対応が難しいです。
今まで色々な病院で何度か治療を試みたが、やはり上手く治療が出来なかった方や軽度の異常絞扼反射がある方多いです。
笑気麻酔では対応が難しく、静脈内鎮静法を用いた無痛歯科治療を行います。
静脈内鎮静法を用いれば苦痛なく治療を行うことが可能です。
今までどうしても治療に前向きに慣れなかった方も通えるようになる方がほとんどです。
歯科恐怖症 重度の場合
お話を伺っただけでは、重度の歯科恐怖症であるという判断は難しいです。
実際には、一度、静脈内鎮静法を行いその上で、判断します。
歯科への恐怖心がとても強く、静脈内鎮静法を行っていて意識がないにも関わらず、口の中に器具が入った瞬間に、無意識のうちに身体が反応して治療が困難な方は、ご相談の上、全身麻酔による治療に移行します。
異常絞扼反射がある場合
基本的には、歯科恐怖症中等度の方と同じ対応からスタートします。
絞扼反射が強い場合には、鎮静も深くなってしまいますので注意が必要です。
静脈内鎮静法では対応が難しく、治療が進まない場合には全身麻酔での治療をご相談します。
その場合には、全身麻酔に対応出来る病院の紹介をさせて頂きます。
歯科恐怖症から治療放棄へ
歯科恐怖症の人は恐怖心のために歯科治療が十分に受けられなかったり、治療を中断してしまったりする事が多く、虫歯や歯周病などの歯科疾患が放置されてしまうことが多々あります。
他の体の病気と同様に早期発見・早期治療が基本です。
口の中のことは歯がダメになったとしても死ぬわけではないと比較的軽視されている場合もあるようです。
そのような考えの歯科恐怖症の人が結果的に長年にわたり歯科医院に行けず、治療放棄に陥りやすいです。
治療放棄後の口腔はどうなってしまうのか
歯の喪失をそのままにしておくと、隣の歯が傾斜や噛み合わせの歯が伸びてきてしまったり、歯並びの乱れが起きます。
虫歯や歯周病を放置すると病状は進行し、最終的に歯を残せないような状態にまで進行してしまうこともあります。
このような状態になると生きる基本「噛む」ができなくなります。
口腔崩壊で最も深刻なのが噛めなくなることです。
噛むことは食べるために必須であり、人は一回の食事につき600回は噛んでいるとされています。
しっかり噛めなければ飲み込むこともままなりません。
また、噛めないことで消化吸収に時間がかかり胃腸への負担が大きくなります。
噛むことの大切さ、効果は以下のような物があります。
・肥満予防
ゆっくり噛んで食べることで食べ過ぎを防ぎ、肥満防止につながりなす。
・味覚の発達
よく噛むことで食材の味がわかるようになり味覚の発達を促します。
・発音
口の周りの筋肉をよく使うことで、正しく明瞭な発音ができるようになります。
・脳
噛む刺激で脳が活性化されます。
・歯肉炎や虫歯予防
よく噛むことで唾液の分泌を促進し唾液の自浄作用により虫歯や歯周病予防になります。
・癌予防(免疫力を高める)
唾液に含まれる酵素が食品の発癌成分を抑え、癌予防につながります。
・胃腸の快調
よく噛むことで消化酵素の分泌が活発になり、消化を助けます。また、食べ過ぎを防ぎます。
・全身の体力向上
口腔崩壊によりこれらの効果が低下することで身体全体に影響を及ぼすことになり得るのです。
多くの歯が虫歯や歯周病で噛むことが難しくなった場合の治療方法
この場合の問題点は、治療時間がかかってしまうことにあります。
なぜなら根管治療と呼ばれる歯の根の治療をしなければならない為です。
根管治療が必要な歯は、治療回数が増えますので、根管治療が必要な歯が多いほど、時間が多くかかってしまいます。
その上で全体的な治療計画、見積もりを考慮し、ご相談の上、いくつかの方法をご提案します。
残せる歯が少ない場合には、1回、ないしは2回の手術で咬合を回復し、噛むことが出来るようになる全顎的インプラント治療を行い、一気に治療を進めていく方が治療のコスト及び期間が短い場合があります。
まとめ
今回は、主に歯科恐怖症の方の重症度に応じた治療方針についてお話しました。
基本的には静脈内鎮静法を用いた無痛点滴治療にて治療を進めていき、治療の進み具合や治療内容に応じてコミュニケーションを取り、相談しながら治療を進めていきます。
今回の内容は、山本彰美先生の『スゴイ無痛歯科治療』という本も参考にさせて頂きました。
本を読ませて頂き、共感できる点が多く、同じような思いで治療されていると感じました。
次回は、静脈内鎮静法と笑気麻酔について詳しくお話させて頂きたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。