虫歯を削らずに治す!知って得する虫歯の基礎
今回から数回に分けて、歯科に最も関係性の深い虫歯についてお話させて頂きたいと思います。
まず初めに、『虫歯をなくす』為にはどのようにすれば良いと思いますか?
虫歯は削って治療をすれば、なくなり元に戻すことが可能ですが、虫歯になった原因を解決しなければ、また虫歯になってしまいます。
これは、車が事故にあって壊れて修理をしても、車の事故は減らないのと同じだ、と分かりやすくCaries Bookの著者の伊藤直人が例えられていました。
ですので、『虫歯をなくす』為には、虫歯の原因を知り、虫歯にならないように問題点を改善する必要があります。
そこで、第一弾は虫歯の歴史とその原因についてお話させて頂きたいと思います。
虫歯の歴史
約1万年前、狩猟生活から農耕生活に移行し、穀物を食べるようになると、う蝕がわずかに増加したそうです。
そこから、ヨーロッパを中心に産業革命が1850年代に起こり、砂糖や精製小麦粉の普及と共に世界中で虫歯が増加しました。
その頃の虫歯の治療は抜歯が主でした。
その後、1908年にG.V.Blackにより虫歯の分類とそれに伴う窩洞形成の方法が発表され、ここから虫歯に対する削る治療が始まりました。
この頃は、虫歯は感染症であり特定の細菌により引き起こされると考えられていましたので、予防のために、より大きく削って治療を行うという考え方が主流となりました。
そして現在では、虫歯は特定の細菌によって引き起こされる感染症ではなく、様々な細菌が関わり合いながら、環境の変化によって起こる非感染性の病気と考えられており、より歯を削らないMinimal interventionと呼ばれる治療に移行し、さらに再石灰化を利用した『削らない治療』も行われるようになりました。
虫歯の原因
現在、虫歯の原因は『生物学的プラーク説』が支持されています。
これは、お口の中に常に存在する、口腔内常在菌と言われる菌の”生態の変化”によって起こるという考え方で、以下の4つのステップで考えられます。
①頻回な糖の摂取によりバイオフィルムと呼ばれる細菌の塊ができ、その中の細菌が糖を使って頻回に酸を出す。その酸により細菌にストレスがかかることで細菌の酸の産生と酸への耐性が増す。
②バイオフィルムの中のpHが、酸性に傾き環境の変化が起こる。
③バイオフィルムの中が酸性になり、酸に弱い細菌は生き残れなくなり、MS菌、乳酸桿菌、ビフィズス菌などの酸性環境で生き残れる細菌が優勢になり、”生態の変化”が起こる。
④酸性の環境で生き残った細菌がさらに酸を産生し、歯の表面からミネラルを奪い歯の脱灰を引き起こし、さらには虫歯を進行させる。
以上の4つのステップが虫歯ができる原因と考えられています。
バイオフィルムとは
バイオフィルムは細菌及び細菌が産生する菌体外粘性多糖体により形成された集合体で、台所の流しなどに見られるヌルヌルした粘着物のことを言います。
お口の中の歯垢はバイオフィルムの典型例です。
しかし、厳密には全てのデンタルバイオフィルムがデンタルプラークではありません。
実際に歯の表面では何が起きているのか?
虫歯の原因がバイオフィルムで、そのバイオフィルムから産生される酸が原因になることはご理解頂けたと思いますので、次にどのようにして歯の表面が虫歯になるのかについてお話しさせて頂きます。
歯とバイオフィルムの境界では、1日の飲食に応じて何度もpHが大きく変化します。
pHとは、液体を酸性・中世・アルカリ性に分類する尺度で、水素イオン(H+)が多い時は酸性、水酸化物イオン(OH‒)が多い時にはアルカリ性を表します。
バイオフィルムの中のpHが歯の臨界pH(エナメル質pH5.5、象牙質pH6.0)を下回ると、バイオフィルムと接している歯の表面からカルシウムやリン酸などのミネラルが溶け出し、歯を溶かしていきます。
これを歯の脱灰と言い、脱灰が進行する事により結果として歯の表面が虫歯になっていきます。
虫歯にならないために知っておきたい7つの事
①虫歯についての基礎知識
②バイオフィルム
③歯磨き
④フッ素
⑤糖
⑥酸
⑦ドライマウス
この7つが虫歯の予防と『歯を削らない虫歯治療』を行うにあたり、とても重要になってきますので、今後のブログにて続きをお話していきたいと思います。
虫歯を削らずに治す方法とその考え方
まず注意点として、全ての虫歯が削らずに治すことができるということではありません。
むしろ、痛みや物が詰まり易くなったなどの症状が出ている歯に関しては、多くの場合治療が必要になります。
では、削らずに治す方法とは何なのか、それは歯が一度脱灰されて、歯面が軟らかく、進行性の虫歯になっている所に対して、ブラッシングとフッ素を応用することで、進行性の虫歯を削ることなく、非進行性の虫歯に変えるという方法です。
また、初期の脱灰であればこの方法で元に戻すことも可能です。
ですが、決して虫歯で穴が大きく開いた所を元通りにする方法ではありませんのでご注意下さい。
この方法は、歯磨きとフッ素の応用により、歯が脱灰する時間を短くし、歯の再石灰化を促す方法で、虫歯予防の延長線上にある考え方ですので、今後数回にかけて、虫歯に関するお話しますので、自然とご理解頂けるのではないかと思います。
まとめ
今回は、虫歯にならないために知っておきたい7つの事の中の、虫歯の基礎知識とバイオフィルムについてお話しました。
内容が少し難しく、分かりづらい部分もあったかと思いますが、いかがでしたでしょうか?
虫歯の原因とそのメカニズムが分かれば、虫歯にならない為に何をする必要があるのか、なぜ日々のセルフケアが必要なのかが分かり、セルフケアの質が向上していきます。
新しい虫歯の発生数は、『磨き方』ではなく『磨く必要性についての理解』によって減少するという文献があります。
このことから『虫歯について知る』ことが虫歯予防の第一歩だと考えています。
次回は、虫歯にならない為に最も重要な、歯磨きについてお話させて頂きたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回の内容はCaries Book(著:伊藤直人)、デンタル カリエス(著:Ole Fejerskov、EdwinaKidd)を元に書かせて頂きました。