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Dr.HAGIO's 歯科ブログ

親知らずを再利用!歯の移植

【監修・執筆】 萩尾 信輔
【監修・執筆】 萩尾 信輔 都立大学HAGIOデンタルクリニック院長・歯科医師

奥歯を失った際の治療法の一つとして、親知らずを抜いて、失われた歯の場所に移動させる移植(自家歯牙移植)という方法があります。
今回は、以前『親知らずは必要ないの?』でも触れた、移植についてお話させて頂きたいと思います。


自家歯牙移植とは


同一口腔内(自分自身のお口の中)において自分の歯を他の場所に移し替える処置です。

通常、抜かなければならなくなった大臼歯の部位に、親知らずを移植することが多いです。

また、矯正で抜くことになった歯を別の部位に移植する場合もあります。



歯の移植のメカニズム


歯の移植の成功率が高まったのは1970~1990年代に移植・再植における、傷の治り方のメカニズムが分かってからのようです。
つまり、どのようにして移植した歯が治っていくかを知る事が、移植のメカニズムを知ることになります。

簡単にお話しすると、歯には歯と歯を支えている骨(歯槽骨)をつなぐ靭帯のようなもの(歯根膜)があります。
この靭帯は通常の抜歯の場合には、抜いた方の歯の根と抜いた後の骨にそれぞれ残り、この残った靭帯同士が結合し、治癒します。
このメカニズムにより、移植した歯が骨にくっ付きます。

完全に歯を抜いた部位が治ってから移植を行う場合には、その部位には既に靭帯(歯根膜)が残っていませんので、治癒の過程が少し異なります。


歯の移植の成功率


移植の成功率は、歯を移植したい部位に歯根膜が存在しているかどうかによって違いがあります。

すなわち、歯を抜いた直後、もしくは早い段階に移植を行うのか、完全に歯を抜いた部位が治ってから移植を行うかによって成功率に大きな違いがあります。
また、年齢も成功率に大きく影響していると考えられます。基本的には、40歳を境に成功率の低下が見られます。

歯を抜いた直後、もしくは早い段階に移植を行なった場合の生存率と成功率
生存率100% 成功率95%

完全に歯を抜いた部位が治ってから移植を行なった場合の生存率と成功率、この場合における年
齢による違い
生存率77% 成功率60%

39歳までに移植を行なった場合
生存率88% 成功率75%

40歳以上で移植を行なった
生存率71% 成功率49%

(成功の基準がそれぞれの論文で違いがある為、文献的に移植の成功率を求めるのは簡単ではありません。今回のデータはTukiboshi M.Autotransplantation of teeth.Chicago:QuintessencePublishing,2001を参照しております。)


歯の移植に必要な条件


歯の移植ができる絶対条件は、「できるだけ状態のいい不要な歯があること」です。
状態のいい、というのは虫歯や歯周病になっておらず、不要な歯というのは、親知らずや埋伏歯などの噛み合わせに関係のない歯などを指します。
この条件で移植したほうが成功率が高まるという意味です。

移植歯として持ってくる歯だけでなく、移植先のあごの骨の状態が悪いと移植の成功率が下がることも考えられます。

移植に適した歯の形態

移植歯として使う歯の「歯の根の形が複雑ではないこと」が重要です。

一般的に歯の根は、歯の種類や・人によって本数や形態が異なります。
まっすぐな根もあれば、大きく曲がっている場合もあります。

歯の移植をする場合には、歯の根が少なかったり、根どうしが癒着して比較的シンプルな形をしているほうが歯根膜を傷つけずに済み、成功率が上がります。
そのため、歯の根のかたちが複雑すぎる場合は、そもそも移植歯として適していないといえます。

移植に適した年齢

歯の移植は、上でも示したように「40歳以上になると移植後の歯の喪失率が高まっていく」という報告があります。
年齢が上がると移植後の治りが悪くなったり、歯周病にかかる率が上がって長持ちしにくくなるためです。

しかしお口の中の状態や治り具合には個人差があります。
「何歳以上はできない」といった決まりはないので、まずはご相談ください。


歯の移植方法・手順


1 移植先の状態を整える
保存不可能と判断されてしまった歯を抜歯し、移植歯を持ってくるのに適切なサイズの穴を骨に掘ります。

2 移植する歯の抜歯
移植先の状態を整えたらドナー歯となる不要な歯を抜歯、移植先との適合を確認します。
一度でぴったりと合うことは少ないので、何回かの調整を行います。

3 移植歯の固定
移植先に歯が適合しているのを確認後、ワイヤーを用いて隣の歯と固定、もしくは糸で結んで固定します。

4 移植歯の根の治療
2~4週間を目安に根管治療(根が完成した状態の歯を移植する場合には、根の治療が必ず必要になります)を行い、その後土台を立てて、型を採ります。

5 被せ物の完成
移植した歯が問題ない事を確認し、被せ物を装着します。


歯の移植の手術が一般的に難しいとされる理由

親知らずの根の周りについている歯根膜と呼ばれる組織は抜歯をしてから18分が経過すると、その生存率が落ちていくという報告があります。
そのため、できるだけ迅速に固定を行う必要があります。

また、移植後はほとんどの場合、根の治療が必要になります。
歯の根が完成していない場合は根管治療の必要はありません。
親知らずの根の治療は複雑な場合が多いため、マイクロスコープ等を用いての治療がより良いと思われます。

以上のような点が、移植の難しい点だと考えられます。

今後、実際の移植の症例を別の記事にしますので、ご興味のある方はそちらもご参考下さい。

歯の移植後の注意点


移植した歯は骨と結合して安定するまで1ヶ月程はかかりますので、その間はできる限り移植した歯を使わずに負担がかからないようにして頂きます。
歯ブラシも移植した歯の周囲は1〜2週間はあまり当て過ぎないように注意して頂きます。

その他は、基本的には歯を抜いた後の注意事項と同じですので、今後掲載予定の抜歯後の注意点とドライソケットの記事を参考にして頂ければと思います。


まとめ


歯の移植は条件が整えば成功率も高く、元々は不要な歯を再利用でき、失った歯と同じように噛む事ができます。

また、アレルギーの心配がなく、周りの歯を削る必要もありません。
もちろん、インプラントを行う必要もありませんので、非常にメリットの多い選択肢になります。

歯の移植を考えられている方は、インプラントとどちらにしようかと悩んでおられる方も多いのではないかと思います。
どちらも隣の歯を削らずに行えるすばらしい治療であることは間違いありませんが、歯の移植の場合は、より自分の歯に近い感覚で使える、治療費を抑えられる、アレルギー等の心配がない、といったメリットがあります。

ただし、前述したとおりいくつかの条件を満たさないと難しい治療です。

インプラントと歯牙移植のどちらが良いか迷った場合には、まず口腔外科やインプラントに精通している歯科医師のもとで検査・相談を受けていただくことをおすすめします。


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