虫歯の予防と削らず治す治療に重要なフッ素の話
今回は、以前に少しお話した、フッ素について詳しくお話させて頂きたいと思います。
そもそもフッ素とは何なのか、危険な物ではないのか?
フッ素は、正しく知り使用することで、虫歯の予防と歯を削らずに治す虫歯治療に効果的ですので、是非、最後まで読んで頂ければと思います。
フッ素とは
フッ素(F)は原子番号9、分子量19の天然に存在する元素です。
元素とは、学生の頃に化学で登場しますが、海や山、動物、空気などあらゆる物が元素から出来ています。
水素(H)や酸素(O)は水や空気などの元素で、私たちにとっては必要不可欠なものです。
フッ素は全ての元素の中で最も陰性度が高く、必ず他の元素と結合してフッ化物として存在します。
フッ化物は自然界に広く分布し、海水中にも含まれています。
また、私たちが日常で摂取している飲食物(お茶、海藻、魚や野菜など)にもフッ化物は多く含まれています。
なぜフッ素は危険と思われているのか
詳しくは後述しますが、過剰摂取による急性中毒や死亡事故、アナフィラキシーに関連する所から、危険なのではとの認識が生まれていると思われます。
フッ素は、塩などとも同様に、適量であれば有効なものでも、量によっては危険になる場合もありますので、十分にフッ素についてご理解頂き、その上で使用して頂きたいと思います。
フッ素の歴史
まずは、歯科においてフッ素が応用されるに至る経緯についてお話させて頂きます。
歯科では、まず初めに歯のフッ素症(斑状歯)の原因としてフッ素が登場しました。
山の岩石にフッ化物が多く含まれ、それが溶けた川の水を飲んでいた子供たちの萌出歯に褐色の斑点が見つかったのです。
さらに調べていくと、その子供たちにはう蝕の発生が少ないことがわかりました。
このことから、当時は、体内にフッ化物を摂取して強い歯を作ることが、う蝕のコントロールに役立つと考えられ、塩、小麦粉、錠剤や水道水などでフッ化物摂取が推奨されました。
1940~1970年代は、歯が萌出する前に体内にフッ化物を摂取して、強い歯を作ることがう蝕のコントロールに役立つと考えられていたからです。
しかし、現在ではフッ化物を体内に取り込む必要はなく、フッ化物が毎日口腔内に存在することでう蝕の進行を遅らせる役割をはたすことが明らかになっています。
それにより、フッ化物を使用する対象は小児から全ての年代へと広がりました。
フッ素で歯を強くは本当か?
フッ化物を摂取、体内に吸収しても歯は強くなりません。
フッ素で歯を強くするというイメージを持たれている方も多くいると思いますが、フッ素を摂取、体内に吸収する事で、歯がハイドロキシアパタイトからフルオロアパタイトに変化して歯が強くなることはありません。
また、フルオロアパタイトはハイドロキシアパタイトに比べて虫歯を進行させないという点において有利ですが、より虫歯を進行させない方法は、虫歯の部位にフッ化物を存在させることです。
これは、フルオロアパタイトで出来ているサメの歯を用いた実験で証明されています。
その理由は、フッ素の再石灰化を促進し、脱灰を抑制する働きがあるからです。
つまり、虫歯予防に効果的なのは、フルオロアパタイトそのものではなく、脱灰部にフッ化物が存在していることなのです。
フッ化物があれば虫歯は発生しないのか?
フッ化物がお口の中に存在しても虫歯になります。
水道水にフッ化物が添加された地域と、フッ化物が添加されていない地域の虫歯の発生と進行に関する研究において、虫歯の発生率はどちらも同じであったが、虫歯の進行度はフッ化物が水道水に添加されている地域の方が低いことが記されています。
このことより、フッ素には虫歯の発生をなくす効果ではなく、虫歯の進行を遅らせる効果があることがわかります。
フッ素の4つの働き
1.再石灰化の促進
脱灰されたハイドロキシアパタイトにフッ化物が作用すると、臨界pHが4.5まで下がり再石灰化が促進されます。
2.脱灰の抑制
酸による脱灰の際にフッ化物が低濃度(0.005ppmF以上)で存在すると、ハイドロキシアパタイトの結晶にフッ化物がゆるく吸着して溶解しにくい構造となり、脱灰を抑制します。
3.結晶性の改善
再石灰化の際、フッ化物は部分的に溶解したハイドロキシアパタイトに優先的に吸着しカルシウムイオンを引き寄せることで耐酸性のある結晶を構成します。
4.細菌の代謝阻害
フッ化物は、細菌が糖を代謝して酸を作る過程で用いる酵素反応を阻害したり、細菌が細胞内から酸を排出する働きを阻害します。
フッ素を応用した削らず治す虫歯治療
『虫歯を削らずに治す!知って得する虫歯の基礎』でもお話しましたが、虫歯を削らず治す方法というのは、ブラッシングとフッ素を応用することで、進行性の虫歯を削ることなく、非進行性の虫歯に変えるという方法です。
これは、前述したフッ素の4つの働きのうちの、再石灰化の促進、脱灰の抑制、結晶性の改善の3つを利用します。
唾液にも同じように緩衝作用による、再石灰化のメカニズムがありますが、フッ素を利用することにより、さらにその効果を高めることで、歯を削らずに治す虫歯治療を行うことが出来ます。
まとめ
今回は、フッ素の歴史から、そもそもフッ素とは何なのかをお話し、その働きから歯を削らずに治す虫歯治療への応用までお話しました。
歯を削らない虫歯治療の主体は患者さんと歯科衛生士です。
その中で、歯を削らない虫歯治療の柱は2つあります。
それは、患者さん自身がう蝕コントロールのためにとる行動と歯科医院で歯科衛生士が行う指導や処置です。
この二つに、適切なフッ化物の応用による、フッ素の働きを利用し、より活動性の虫歯を非活動性の虫歯へと変化させるように導き、歯を削らない虫歯治療を可能にしてくれます。
次回は、実際にはどのようなフッ化物製品を選択し、どのように使用するのかをお話したいと思います。
専門的な用語も多い中、最後まで読んで頂きありがとうございました。