歯医者が伝える、転んで顔をぶつけた時の対処法
今回は、日常生活において起こりうる、転倒や衝突などによる顔面の強打・外傷、歯の打撲・脱臼・脱落が起きた際の、ご自身での対応方法と歯科での治療方法についてお話しさせて頂きたいと思います。
事故が起こった時の場所や状況、外傷の度合いによって対応方法が異なりますので、いくつかの状況に分けてお話させて頂きます。
転倒や衝突によって顔や歯、口腔内に外傷をおった場合の対応
傷口の洗浄
特に、屋外での事故の場合には、顔に砂や砂利、ガラスなどの汚れが傷口に付着している場合があります。そのような場合には、水で十分に洗い流して下さい。
また、お口の中が汚れた場合にはうがいを行って下さい。
出血の確認
傷口の洗浄後、出血の確認を行います。傷が浅くあまり出血していないようであれば無理に触る必要はありません。
口唇や歯茎などで傷が深く、血が止まらない場合には、綺麗なガーゼやティッシュ、タオルなどで抑えて圧迫止血をします。
それでも出血が止まらない深い傷の場合には、圧迫止血を行いながら医科へ受診して下さい。
木の破片などの異物が深く刺さっている場合には、無理に取ったり、抑えたりする必要はありません、触ると傷を深くしてしまう場合があります。
顎の動きなどの機能面の確認
口を動かした際に強い痛みを感じる場合や口が開けられない、閉じない場合には骨折や顎の脱臼が考えられます。その場合には、無理に動かさずにそのまま口腔外科や整形外科、大学病院を受診して下さい。
もしくは、近くの歯科、病院から高次医療機関へのご紹介を受けて下さい。
歯の確認
小さく歯が欠けている程度であれば、無理に探す必要はありませんので、医療機関への受診を優先して下さい。大きく欠けた場合や歯が脱落している場合には、可能であれば探して頂き、乾燥させないように、水や生理食塩水、冷たい牛乳につけてお持ち下さい。
その際に、歯、特に歯の根の部分はあまり触らないように注意して下さい。
また、欠けた、もしくは脱落した歯を消毒薬や洗剤などで洗うことは避けて下さい。
綺麗にしようとゴシゴシ洗ってしまうことにより、歯の根の周りについている歯根膜と呼ばれる、再植時に大切な組織が失われてしまいます。
歯の脱落のみで、大きな傷もない場合には、出来る限り早く歯科を受診し、元の位置に戻すことにより、再度歯を使える場合がありますので、その場合には歯科の受診をお勧めします。
歯の脱落の場合には、早ければ早い程、歯を元の位置に戻すことが出来る可能性が上がります。
たとえ、もし時間が経ってしまったとしても、脱落した歯の再植可能時間の限界は分かっていませんので、時間が経っても諦めずに、脱落した歯をお持ち下さい。
歯の受傷状況の違いによる対応方法
歯が欠けた場合
欠けた歯の大きさによって、その後の対処方法にも違いがあります。
歯が欠けた範囲が大きくない
痛みなどの症状はなく、歯の神経や歯茎への影響も少ない場合が多いですが、ぶつけた衝撃により、後日、歯の変色や歯茎の腫れが起こる可能性があります。
また、欠けた部分からの感染の可能性や歯に見た目には分かりづらいヒビなどがある場合がありますので、緊急性は低く感じますが、歯科への受診をお勧めします。
歯科医院での治療
欠けた歯を使用する事は少なく、コンポジットレジンと言われる樹脂で欠けた部分を修復しますので、欠けた歯は必ずしも必要ではありません。
歯が欠けた範囲が元の歯の半分以上欠けた
歯の神経まで露出している可能性が高くなり、強い痛みや歯茎の腫れを引き起こす場合があります。また、放置しておく事で感染を引き起こしますので、早めの受診をお勧めします。
歯科医院での治療
一時的に欠けた歯を利用する場合もありますので、可能であれば欠けた歯をご持参ください。神経の感染がなければ、神経を取らずに治療する事が可能です。
神経の感染や強い痛みがある場合には神経の処置が必要になる場合があります。
そして、最終的にはコンポジットレジンで修復を行うか、被せ物での治療を行います。
歯が揺れている場合
強い衝撃を受けることで、歯だけでなく、歯を支えている骨にまで影響が及んだ場合に、歯が揺れてくることがあります。揺れが小さい(歯の亜脱臼)
受傷直後は無理に触らずに歯科を受診して下さい、診察において大きな問題がなければ噛み合わせの確認後、経過観察を行います。歯の揺れが大きい(歯の脱臼、歯の根の破折)
この場合、揺れが大きいため、噛み合わせると揺れている歯に強く当たる場合がありますので、あえて噛み合わせたり、揺らすことは控えて下さい。歯科医院での治療
レントゲン写真、CTを撮影し、歯の根が折れているかどうかの診断を行います。歯が折れている場合も含めて、基本的にはワイヤーや接着剤を用いて周りとの固定を行い、出来る限り歯の保存に努めます。
その後、歯の揺れの大きさや症状に応じて治療方針を決定します。
場合によっては抜歯を行わなければならない事もありますが、安易に抜歯を行うのでなく、その後の治療内容に応じて抜歯のタイミングを決定します。
インプラントの場合には抜歯と同時にインプラントを行った方が有利な場合も多いため、担当の歯科医師とよくご相談下さい。
歯の位置が変わってしまった場合(歯の転位、陥入)
歯の揺れが大き場合と同様に、噛み合わせると強く当たってしまう場合がありますので、出来る限り触らずに歯科を受診して下さい。歯科医院での治療
受傷後すぐであれば元の位置に戻して固定を行います。しかし、時間が経っていると元々歯の根があった部分に血液が溜まり、元の位置に戻せない場合には、噛み合わせの調整後経過を見て、最終的に矯正治療などで元の位置に戻します。
受傷した歯は、アンキローシスと言われ、歯と骨が癒着した状態になって矯正治療でも歯を動かせなくなる場合もあります。
歯が抜けてしまった場合
歯が抜け落ちてしまった場合でも、『再植』と呼ばれる、歯を元の位置に戻す処置が可能な場合がありますので、諦めずに歯をお持ちの上、歯科を受診してください。再植を可能にするための条件
・抜けた歯が汚れている場合には、流水で洗い流すこの時、歯の根の部分は極力触らないようにして下さい。
もちろん、ゴシゴシ擦ったり、石鹸なども使用しないで下さい。
・水や生理食塩水、冷たい牛乳に浸した状態で、歯科医院に持参する
歯根膜と呼ばれる歯の根の周りに付いている組織は乾燥に弱いため、なるべく乾燥させないようにして下さい。
(詳しくは、『知っておきたい、脱落した歯の適切な保存方法』を参考にして下さい。)
・受傷後、出来る限り早く歯科を受診する
以前のブログ『親知らずを再利用!歯の移植』でもお話したのですが、歯の歯根膜は抜歯後18分が経過をすると、その生存率が落ちていくといわれていますので、20分、ないしは30分、1時間以内が望ましいと考えます。
歯科医院での治療方法
歯を元の位置に戻して、周りの歯と固定を行います。その後、感染や痛みなどもなく安定した場合には、根の治療を行います。
歯の色が変わってきた、歯茎が腫れてきた場合
受傷後すぐではなく、数ヶ月から数年後に歯の変色や歯茎の腫れが起こる場合があります。これは、受傷時の衝撃により、徐々に神経が壊死を起こした場合に起こります。
この場合には、神経の処置を行う必要があります。
また、症状がない場合でも、レントゲンやCTを確認すると根の先に病気を作っている場合もありますので、受傷後は歯科でレントゲンとCTを定期的に撮って経過を観てもらうことをお勧めします。
まとめ
今回は、顔面の外傷に関する内容をお話させて頂きました。
受傷直後に特に大切な事は、傷口を清潔にする事です。
また、土壌中には破傷風菌が存在しており、破傷風に感染するリスクがあるため、まずは皮膚や口唇などの軟組織を水で洗って清潔にして下さい。
破傷風はケガをした後1週間程で、首がつっぱる、口が開かない、物が飲み込みにくいといった症状が出ます。
その場合には、即座に医科を受診して下さい。
また、口唇などが深く切れた場合などは傷口を縫う必要が出てきますが、顔の特に見える部分の縫合は非常にデリケートな為、傷が残ってしまったり、引っ張られる感覚が残る場合がありますので、出血が止まらず大きく切れている場合などは、まずは歯科ではなく大きな大学病院などの形成外科や整形外科のある所をお勧めします。
近くに大きな病院がない場合には、歯科や近くの個人病院からの紹介の元、高次医療機関への受診を行なって下さい。
最近では小さい子供から大人までキックボードでの転倒が多く見られます。
キックボードは車輪が小さいため、思わぬ段差で転倒してしまいますので、十分に注意をすると共に、万が一に備えてかかりつけの病院や歯科、近くの大学病院を確認しておく事をお勧め致します。
最後まで読んで頂き有難うございました。